本格的な少子高齢化社会到来を見据え、積極的なDX化の
促進による介護サービスの拡充に努めてまいります。
第1の事業の柱である介護事業における積極的なDX化の促進、第2の事業の柱として強化を進める不動産事業、第3の事業の柱となる新規事業の創設を通じ、中期的に連結売上高1,000億円以上、連結経常利益100億円以上を目指すチャーム・ケアグループ。これらの成長戦略を支えるサステナブル経営に対する取り組みを含め、事業活動の概況について、代表取締役会長兼社長の下村隆彦に聞きました。
2023年6月期の事業環境、ならびに事業活動と業績のレビューをお願いいたします。
OPENCLOSE介護事業では、首都圏で8ホームを新規開設し、運営ホーム数は84ホームとなり、着実な成長を実現いたしました。不動産事業は、大田中央と仙川の2案件の売却が予定通り完了するなど、順調に推移いたしました。
2023年6月期(以下、「当期」)より、その他事業に計上してきた不動産事業を独立したセグメントといたしました。この結果、その他事業は、介護業界中心の人材派遣事業を担うグッドパートナーズ社と新規事業で構成されております。ここでは、介護事業、不動産事業を中心に、各事業セグメントの概況をご報告いたします。
<介護事業>
コロナ禍や光熱費高騰などの影響を受けましたが、光熱費などの上昇に応じた管理費の改定や入居率に応じたコスト管理により対応いたしました。第3四半期までは、消耗品やスタッフの危険手当などのコロナ関連経費により売上原価が上昇しておりましたが、コロナ関連経費とほぼ同額を補助金で賄うことができました。
当期は⾸都圏で8ホーム、470室の新規開設となり、累計で84ホーム(⾸都圏39ホーム、近畿圏45ホーム)、5,673室(⾸都圏2,314室、近畿圏3,359室)となりました。また、当社およびグループ会社であるライク社が所有するいずれのホームにおいても高い入居率を実現しました。
<不動産事業>
東京都大田区の建物(「大田中央案件」)、東京都調布市の土地・建物(「仙川案件」)の売却を予定通り第4四半期に完了いたしました。特に大田中央案件は借地権付建物の売却でしたので、土地購入に関わる原価を計上する必要がなく、高い利益率を実現し、大幅な増収増益につながりました。
<その他事業(グッドパートナーズ社)>
2020年7月にグループ入りした同社については、派遣スタッフのコロナ感染が増加するなどの影響を受けたものの、訪問看護などの事業でカバーすることで増収増益となりました。
中期経営計画の成長戦略に基づき、今後の事業展開の方向性についてお聞かせください。
OPENCLOSE長期的に着実な利益を積み上げる介護事業に加えて、短期的に大きな利益獲得を目指す不動産事業を強化することで、「着実な成長+高成長」を実現してまいります。
<介護事業>
当事業においては、年間10ホーム前後を目標に、首都圏・近畿圏の都市部に中・高価格帯を中心としたバランスの良い開設を推進してまいります。入居率が低迷しているホームについては、当社グループ内に入居者紹介センターを創設し、課題克服を図るなどの検討も進める計画です。一方で、ホームで働くスタッフの業務効率化・負担軽減とご入居者さまへのサービス向上の両立を目指したIT・AIの活用強化を一層推進してまいります。
<不動産事業>
自社運営の新規ホームの開設は、スタッフの採用や教育・研修などの運営品質維持を鑑みると年間10ホーム程度が適正だと考えております。また、立地などの条件が当社ホームの価格帯やブランドに適さなくても、他の運営事業者に適したホームの開設が可能な場合があります。
当社の不動産事業は、数多くの老人ホーム開設を手掛けてきた当社独自のノウハウにより、高付加価値なホームを開発し、その運営を他社に任せることを前提に、開発物件(土地・建物)を第三者に売却することで売却益を得るスキームを可能にしております。建物完成後、即売却することで資金負担の長期化を回避するとともに、物件の希少性・高付加価値化によって高い利益率を目指すものです。
立地選定力などを含め、当社がこれまで実現してきた高入居率ホームの開設実績によって、当社が開発するホームに対して他の運営事業者からも高く評価されております。
<その他事業(グッドパートナーズ社)>
2023年7月、グッドパートナーズ社がティガリアルエステート社から介護タクシー※1事業である「介護タクシーのむつみ」を譲り受け、当社グループ内で介護タクシー事業を開始いたします。当社ホームのご入居者さまは、外出や通院の際に、車椅子・ストレッチャーに乗ったまま移動が可能な「介護タクシー」を利用されることがあり、これまでは外部の介護タクシーをご利用いただいておりました。今般の事業譲受により、当社ホームのご入居者さまに、当社グループの介護タクシーを利用していただくことができるようになります※2。介護タクシー事業は、当社ホームへの入居促進営業活動にも寄与し、当社グループの中核事業である介護事業とのシナジーを発揮し、介護事業を補完するメリットがあると考えております。
<その他事業(新規事業)>
2022年11月に資本提携したウェルヴィル社が開発したAI対話エンジン「LIFE TALK ENGINE」をベースにした対話可能なアバターの開発は、若干の遅れはあるものの、BtoC事業として継続しております。加えて、BtoB事業として、新たなAI関連製品の開発に着手いたしました。
※1:「介護タクシー」は通称であり、正式名称は「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送限定)」です。
※2:現状、「介護タクシーのむつみ」は、東京都世田谷区を中心に、狛江市、調布市、三鷹市、府中市、武蔵野市でご利用いただけますが、今後、当社ホームが所在するエリアに事業エリアを拡大する予定です。
2025年問題やそれに伴う介護難民問題に対する取り組みについてお聞かせください。
OPENCLOSE積極的なDX化の促進により、業務効率化と省力化を図りながら、サービス品質の向上、スタッフの処遇改善に努めてまいります。
日本の総人口のおよそ2割が75歳以上になると推測されている2025年問題や今後の介護難民問題などを考慮すると、人材の確保・定着は大きな社会的課題です。しかしながら、介護職員の有効求⼈倍率は全業種平均を⼤幅に上回る状況が続いております。こうした市場環境を克服するためにも、当社は積極的にDX化を促進し、介護現場の業務効率化・省力化を図りながら、スタッフの処遇改善を目指しております。
DX化の具体例として、当社ホームでは積極的にテクノロジーの活用を進めております。例えば、非接触センサーを利用した見守りシステムである「ライフリズムナビ」。この導入により、夜間の安否確認のための訪室が減少し、ご入居者さまの睡眠の質向上、夜勤スタッフの負担軽減につながっています。インカムの使用は、スタッフ間のコミュニケーション効率の改善を実現しております。食事提供業務の効率化につながる配膳ロボットの導入、AI技術による膀胱尿量自動計測により排泄ケアの質向上などを可能とする「ポータブルエコー」は、全ホームへの配備を進めております。
当社は、厚生労働省の介護給付費分科会2022年度実証事業「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証」に採択され、見守りシステム・インカム・コミュニケーションロボット・排泄ケアの見直しなどの機器導入とオペレーション変革によるサービス品質の向上・生産性向上の実証実験にも参画しております。
介護現場のDX化の促進を加速させるため、当社は介護DX推進課を創設し、教育・研修センターでの集合研修、eラーニング・受講管理システムによるオンライン研修など教育・研修体制の強化・拡充を進め、グループ全体で介護サービスのさらなるレベルアップを図っております。
こうした取り組みを通じた業務効率化・省力化は、より少ない人員でより高いサービス品質を実現しうるため、人材確保が困難な事業環境における介護サービスの拡大という、2025年問題や介護難民問題といった社会問題への対策につながると考えております。さらに、スタッフの給与面を含めた処遇改善にもつながることから、本格的な少子高齢化社会の到来を見据えた本質的な取り組みであると考えております。
サステナビリティに関する具体的な取り組みについて、現状をお聞かせくだい。
OPENCLOSE「豊かで実りある高齢社会」づくりへの貢献をミッションに、ステークホルダーの皆さまとの協働を通じて、持続可能な社会の構築に貢献するとともに、中長期的な企業価値の向上を目指しております。
当社はプライム市場上場企業として、サステナビリティ基本方針に則り、「①地球環境問題への配慮」、「②人権の尊重」、「③従業員の健康への配慮、労働環境の整備、処遇改善」、「④社会との公正・適正な関わり」、「⑤リスクマネジメント(危機管理)」という5つの項目に対し、事業を通じて取り組む重要課題として目標を設定しております。
③では、働きやすい環境の整備に取り組んでおります。男性社員の育休取得を推進し、女性の出産後の復帰も積極的に支援するとともに子育て時期の時短勤務も可能としております。またダイバーシティ&インクルージョンの観点から、同性婚にも慶弔見舞金の支給ができるよう社内規程を変更いたしました。
④の一環として取り組んでおりますヤングケアラー支援は、特定非営利活動法人ふうせんの会に対し、活動資金の援助や、当事者会である「子ども・若者たち(ヤングケアラー)のつどい」の開催で協働しております。加えて、兵庫県尼崎市のスクールソーシャルワーカーと協力し、尼崎市内の当社が運営する有料老人ホームで行うイベント「こどもgaカフェ」の開催支援にも着手いたしました。
『こどもgaカフェ』は、当社が運営する有料老人ホームにおいて、子どもたちが中心となり、調理だけでなく接客も行う「子どもたちが運営するカフェ」の活動です。子どもたちが集まって楽しく、安心して過ごせる場を提供し、家庭や学校とは違う第3の居場所づくりを目指しております。子どもたちにとって貴重な仕事体験となるだけでなく、有料老人ホームのご入居者さまなどとの多世代交流の機会にもなっております。
また、子どもの貧困問題に取り組む認定NPO法人キッズドアと協働事業についての包括協定を締結いたしました。子どもの貧困対策、少子高齢化社会の活性化に寄与し、世代間を通した教育・福祉の向上を目指して取り組んでまいります。具体的な活動としては、2025年6月期に開設を予定しております(仮称)チャームスイート神戸垂水、(仮称)チャームスイート西新宿において、「居場所型学習支援」を予定しており、今後さらに連携を強めてまいります。
若手アーティスト支援を目的におこなっているアートギャラリーホームの活動は、昨年に続き公益社団法人企業メセナ協議会による「This is MECENAT 2023」の認定を受けました。今後は、首都圏だけでなく近畿圏でもアートギャラリーホームの活動を進めてまいります。
株主の皆さまへ
OPENCLOSE2025年問題をはじめ、本格的な少子高齢化社会の到来を迎え、介護事業に対するニーズの高まりが予想されます。従来、連結売上高1,000億円以上、連結経常利益100億円以上の達成を中・長期目標と位置付けておりましたが、来るべき未来を見据え、予め対策を講じることで介護事業の拡充に努めるとともに、第2の事業の柱である不動産事業の成長、第3の事業の柱となる新規事業の創設を通じ、より近い未来を見据えた中期目標としてその実現を目指してまいります。
また、ホームを運営している地域に根差した事業活動を通じ、地域社会との関わりを積極化し、ステークホルダーの皆さまとともに「豊かで実りある高齢社会」づくりを実現していきたいと考えております。
株主の皆さまにおかれましては、さらなる成長を目指す当社グループを変わらずご支援くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。