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原点回帰で介護事業の一層の質向上を追求し、
ご入居者様に選ばれるホームづくりを推進します。

不透明なマクロ環境が継続するなか、高齢者人口の増加に伴う介護サービス需要が高まる一方、介護職員不足の進行など、業界は多くの課題に直面しています。そのような環境下、高齢社会の課題解決に向けて、原点回帰に大きく舵をとりつつあるチャーム・ケアグループの現状と今後の取り組みについて、代表取締役会長兼CEOの下村隆彦に聞きました。

当期のポイント

  • 介護事業は、既存ホームが順調に推移していましたが、介護業界全体でご逝去による冬場の退去数が例年以上に増加したため、改めて営業を強化し、業績回復に努めました。新規開設については、M&A7ホーム、居抜き1ホームを含めた14ホームとなりました。不動産事業では、工事費の高騰、工期の長期化、金利上昇により、厳しい事業環境が続きました。

インタビュー

現行の中期経営計画の成長戦略に基づき、2025年6月期のレビューをお願いいたします。

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「既存事業の発展と事業領域拡大」戦略における中核事業の介護事業では、前期に比べ、14ホーム増、996室増となりました。例年に比べ、新規開設だけでなくM&Aを積極的に行なった結果、運営ホーム数は105ホーム、居室数は7,155室となりました。

※グッドパートナーズ社運営のホスピス型住宅「アテニティ玉川学園」を含む

介護事業

介護職員不足、光熱費や物価の高騰による影響が継続しているものの、既存の介護ホームは高位の入居率を維持し、順調な成長トレンドにありました。しかしながら、冬場に介護業界全体でご逝去が例年以上となり、退去数が増加したことから、1月から2月にかけて入居率が想定以上に低下いたしました。2月以降、入居率が低下したホームを中心に営業を強化し、新規入居者数の増加により、3月には回復傾向に転じました。

具体的には、課題ホームがあるエリアにおいて、紹介会社や病院、ケアプランセンターへの地道な営業活動を進めたほか、各ホームにおける環境美化・接遇の強化、要望の強い早期入居やショートステイへの対応を強化いたしました。また、迅速な改善策協議を積み重ねた結果、営業面・入居面で早期に状況が改善いたしました。

2025年6月期(以下「当期」)は、運営ホームに加えた14ホーム(首都圏8ホーム、近畿圏6ホーム)のうち、M&Aによる取得が7ホーム、リユースが1ホームとなりました。年間新規開設の目途は約10ホームでありましたが、それを超える運営数の増加となりました。M&Aやリユースにより取得したホームに関しては、当社のノウハウの注入により、早期の入居率改善や効率化が図れるため、2026年6月期(以下「来期」)以降の成長を牽引することが期待されます。

新規開設の加速が可能になってきた背景には、人材の確保や迅速なインフラ立ち上げなど、開設に必要なキャパシティの拡充があります。特に、2000年4月の介護保険制度開始からほぼ四半世紀が経過した現在、物件オーナーとの契約が切れるホームが増加しています。このような物件情報を積極的に収集し、当社方針に合致する物件については、当社の機動力をもって新たに契約を締結し、M&A案件やリユース案件として、スピード感ある新規開設につなげるべく、開設手段の多様化を図っております。

不動産事業

工事費の高騰、工期の長期化、金利上昇、そして購入者側の利回り要求が高くなったことで、所定の利益が出ない状況に陥りつつあった当事業は、一定のリスクをはらんでいました。これにより、やむを得ず売却した物件も出てきております。

こうした事業環境に鑑み、来期以降、売上収益を拡大するための一般不動産の売買や他社運営物件の開発・売却事業を中止することを決断いたしました。他方、物件開発機能を保有していることが当社の強みですから、自社グループ運営ホームのための土地取得・開発には積極的に取り組んでまいります。

その他事業(グッドパートナーズ社)

当期、グッドパートナーズ社はホスピス事業を立ち上げ、訪問看護事業で培った同社のノウハウとリソース、当社の物件開発力を組み合わせることで、順調なスタートを切ることができました。ニーズは非常に高い事業ですので、来期以降も年間数件のペースで、着実に運営数を増やしていく計画です。

一方で、ホスピス業界において問題となっている不正請求などの事案が発生しないように、当社からの監査を含め、グループガバナンス強化の取り組みに着手しております。

新規事業(AI関連事業)

介護事業者向けBtoBサービスの「虐待防止システム」は、最終製品化に向けた二次開発の第二次実証実験の段階にあります。実用的なサービスとして外販できる水準に機能・品質を引き上げるため、慎重に検証を進めております。また、生成AI技術を用いたBtoCビジネスとして、コンシューマ向け対話サービスを開発中です。タブレット端末を活用し、アバターと会話する試作品で実験を進めております。

現行の中期経営計画に沿った介護事業における取り組みの進捗についてお聞かせください。

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少数精鋭プロジェクトや介護DXの推進を通じ、生産性向上の成果が出ています。また、処遇改善や「選択的週休3日制」も適宜進捗しています。

介護DX促進を通じた成果の顕在化

当社ホームでは、スタッフ間の指示や伝達等のコミュニケーション効率改善に向けて、アプリ型インカムを導入してまいりましたが、2025年8月までに104ホームへの導入が完了いたしました。また、配膳ロボットについても、2025年8月現在、21ホームに24台が導入済で、業務時間・配膳時間・待ち時間ともに、それぞれ58%・45%・50%の削減につながっております。

また、AIガイド付きのポータブルエコーを全ホームに導入し、より精度の高い排泄ケアの提供に努めておりますが、この規模での老人ホームへの一斉導入は業界初の取り組みとなります。このほか、主に共用部の床清掃に業務用清掃ロボットを8ホームに導入し、先行導入ホームにおける成果として、月間90時間の時間創出と、約67%の清掃費用削減につながっております。

人員配置柔軟化の認可を全国初で取得

このような介護DXの促進に加え、少数精鋭プロジェクトのもと、「アソシエイト・リーダー」の設置による人員配置の最適化に取り組んでおり、すでに職員一人当たりの労働生産性において、前期に対し約37千円/月の増加という成果が得られました。

従来、介護付有料老人ホームでは、入居者3人に対して、介護職員・看護職員の合計が常勤換算で1人以上であることが要件とされていましたが2024年4月より、IT活用を含め、生産性向上に向けた複合的な取り組みを前提に、「3:1」の比率が「3:0.9」に緩和されました。

この認定を、「チャーム西宮用海町(兵庫県西宮市)」が全国で初めて取得いたしました。これは、IT導入や人員配置を効率化したとしても、お客様へのサービスの質を落とすことなく、かつ社員の負担も増やすことなく改善できていることが評価された結果です。来期は、他のホームにおいても認可取得に向けた取り組みを展開していく計画です。

処遇改善と選択的週休3日制の導入

当社では、処遇No.1に向けての取り組みに注力してまいりましたが、当期で介護業界でトップクラスの給与水準になったと認識しております(当社調べ)。また、当期の社員の平均給与は一般企業の平均給与に近い水準にまで引き上げることができました。今後とも、効率的かつ質の高いサービスの提供に努め、一層の処遇改善に取り組んでまいります。

さらに、2024年7月から試験的に開始した選択的週休3日制についても、軌道に乗ってまいりました。選択制であるため、育児や親の介護など、家庭の事情がある方や、体力的に難しい方は無理に参加する必要はありませんが、それ以外の社員には積極的に参加してほしいと働きかけてまいりました。

処遇改善や選択的週休3日制といった複合的な取り組みの結果、採用活動にも大きな成果が出始めております。新卒採用において、当期はすでに、前期を大きく上回る内定承諾を得ておりますし、過去数年にわたり、社員の定着率も目に見えて改善しております。これらの取り組みが、今後の雇用拡大にさらに寄与することを期待しております。

※当社オウンドメディア「チャームポイント」において、選択的週休3日制の導入に関する現場の声をご紹介しています。

2025年8月7日開示の中期経営計画の見直しのポイントと概要についてお聞かせください。

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不動産事業の方針を見直し、介護事業に関わる開発に集中すること、さらにあらゆる経営資源を介護事業に集中投入することで、中核事業への「原点回帰」を強力に推進いたします。

従前より私は、当期を当社グループの成長の「踊り場」と捉えておりましたが、実際は想定以上に大きな変化がありました。特に、市況変動が激しい不動産事業の影響を色濃く受けました。その現実を踏まえて、来期から始まる新中期経営計画では、成長に対する考え方を大幅に見直しました。従来、成長の源泉として、規模の拡大を重視してまいりましたが、社員やサービスの質向上を最重要課題として、規模の拡大を図りながらも、内部の本格的なレベルアップに取り組む方針に切り替え、それを介護事業への「原点回帰」と定義いたしました。

現在は、ご入居者様がホームを選ぶ時代です。インターネットの普及で、最後の決断まで、複数のホームを比較検討することが可能です。そのなかで当社を選んでいただくには、ホームの雰囲気がいい、整理整頓・美化がなされている、スタッフがきびきびして礼儀正しいなど、様々な要素がすべて融合して、選ばれるホームの競争力となるのだと思います。他との違いが感じられ、「ご入居者様に選ばれるホーム」―これを私は「ぴかぴかのホーム」と呼んでいますが、この「ぴかぴかのホーム」づくりで介護事業への原点回帰を図ってまいります。

新中期経営計画のもと、来期以降の重要施策として、少数精鋭プロジェクトの更なる進化、すなわち精鋭化に取り組みます。介護の現場の一人ひとりのレベルアップを図ることで、少ない人数でも質の高いサービスを提供できる仕組みを強化するとともに、改めて介護現場のDX化を加速いたします。以下に、現在着手している新たな取り組みについて、ご紹介します。

スタッフ・ホーム長のレベルアップに向けて

原点回帰の一環として、教育・研修についての方針を大きく変えました。従来は、研修センターでの座学が中心でしたが、スタッフがご入居者様役となる研修では、体が不自由な高齢者の方々への対応を充分に学ぶことはできません。このため、介護の現場であるホームでのOJT(実際の業務を通した知識・スキルの習得)を中心に、研修スタッフが各ホームに出向いて、直接教育・研修を実施する仕組みに変えております。現在、経験値が高く、介護スキルのある中堅社員を本社に集約し、研修スタッフの増強を図っております。より多くの介護の現場で教育・研修を展開することで、現場スタッフのさらなるスキルアップを図ってまいります。

また、ホームの質を向上させるためには、ホーム長の統率力・リーダーシップなどのマネジメント力が不可欠です。来期より、近畿圏では私が、首都圏では小梶社長がホーム長のレベルアップ研修を直接執り行うことにいたしました。このように、あらゆる角度から、精鋭化に向けた取り組みを強化してまいります。

生成AIを活用したケアプラン作成のシステム化

IT大手企業との共同開発によるAIケアプランナーシステムを開発中です。チャットGPTを活用したシステムを構築することで、精度の高いケアプランの作成が可能になります。現在、介護付有料老人ホームなどでのケアマネジャーの担当上限件数は法的に100件となっていますが、実際は60件前後が限界です。このため、80居室規模のホームでは、ケアマネジャーが2名必要になります。

このシステム化を通じ、ケアプラン作成の効率化・質向上を図ることにより、1ホーム当たりのケアマネジャーの負担を軽減できるほか、新規開設を加速している現状において、ケアマネジャーの最適配置につなげていきたいと考えています。

株主の皆さまへのメッセージ

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サステナビリティの取り組みについても、引き続き積極的に推進しておりますが、特にヤングケアラー支援の輪が広がっております。神戸市に加え、品川区、京都市、兵庫県と協定を締結し、連携が始まっております。障がい者アートについても、神戸市と連携協定を締結いたしました。

このように、地域社会との新たな接点を大切に作り続けながら、また事業活動においては常に新陳代謝を繰り返しながら、「豊かで実りある高齢社会」づくりを目指してまいります。介護事業への原点回帰により、盤石な事業基盤構築に取り組む当社グループを変わらずご支援くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。